三つのリング

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「あのー、実は、もう一個あるねんけど。」

…?どういうこと?

 

たった今彼からもらったばかりの
婚約指輪を指にはめ、大切に撫でたり
ダイニングの蛍光灯にかざしたりしながら、

「いよいよ婚約かあ…」

と感慨にふけっていた私。

 

目の前の彼が言った言葉の
意味がわからず、聞き返した。

「え?もしかして
結婚指輪も一緒にってこと?」

「ううん、違う違う。
それは今度一緒に買いに行こう。

じゃなくてその…」

彼は、なんだかもじもじしている。

 

何?普通婚約指輪は一個でしょうに。

「これなんですが。」

なぜか敬語の彼がカバンから取り出したのは、
水色の紙にくるまれた小さな立方体だった。

どうみても彼のお手製だったが、
上にちょこんとつけられた
ピンクのリボンがすこしかわいい。

「…これ、開けていいの?」

「うん。けど、引かんといてな。」

引く?ますますわからない。

 

ここは小洒落たレストランじゃなく
私の1DKのマンションで、
あなたは会社帰りで
ワインもケーキも粋な言葉もなく

「よろしくお願いします。」

と指輪のみを渡してくれただけだけど、
今私は最高に幸せなんだから
どうか水を差さないで。

そんなことを考えながら包装紙をとると、
出てきたのは小箱だった。

 

彼をちらとうかがうと、
小動物みたいにびくびくしている。

何なんよ、もう。

 

私は、上ぶたをかぱりと開けた。

「な、何これ…?」

「…指輪です。」

 

指でつまみ上げたその金属は、
確かに指輪と言われれば指輪だった。

ただ表面は鈍く光り、質感はごつごつ、
ところによってはがたがたの、
辛うじてリングとわかる代物だった。

薬指のまっさらな指輪と比較すると、
とても同種のものとは思えない。

 

「えーっとこれは…」

「手作りなんです。」

「えっ?」

「しかも、かなり長い年月をかけました。」

「ええっ!」

「どうかそれ、貰って下さい!
そんで、許して下さい!」

 

…何を言ってるんだ、この人は。

私はもう、全く訳がわからなかった。

 

「実は…」

彼は私と同い年の二十七歳。

仕事の関係で知り合い、
つきあい始めて二年になる。

その最初のころ、一度聞いたことがある。

何人くらいとつきあったことがあるの、と。

その時彼はさらりと三人かな、と答えた。

私はそれ以上深くは聞かなかった。

それが見栄を張りたいがための
真っ赤な嘘だったと彼は言うのだった。

 

「結婚するのに嘘はやっぱりいかんと…
だからごめんなさい。許して下さい。」

私は思わずふきだした。

「じゃあ、このがたがた指輪は?」

「これはその、あまりに彼女が出来ず
寂しいので、将来の奥さんに渡そうと、一生懸命…」

「私に逢う前から?」

「…うん。」

 

彼が一人で黙々とこの指輪を
削っているのを想像して、
私はとうとう大笑いしてしまった。

 

「ははは。許すも何も、
最初からわかってたよ。」

「ええっ!」

 

この人で本当によかったと、私は思った。

その後、私達は
冷蔵庫にあったビールで乾杯をした。

 

あれから六年たつ。

婚約・結婚・そして彼の手作りの指輪。

この三つのリングと彼の笑顔が、
私の元気の素である。

 

「結婚やプロポーズにまつわるエピソード」より

*********************

結婚するのに嘘はいかんという
彼のまっすぐな想いと、
手作りのがたがた指輪を判って
受け取ってくれた彼女。

二人共素敵です。

微笑ましい話で
こちらまで幸せな気分に
なってしまいました(#^.^#)

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